現代の建設業界において、IT技術とソフトウェアの活用はますます重要性を増しています。しかしながら、建設界は他業の分野と比べるとIT投資額が低いという現実があります。IT投資額が低くなる要因として細分化された専門的な業務が絡み合いながら建設プロジェクトが展開されるため、ひとつひとつの業務に対するIT投資対効果が見えづらいことを以前の記事で解説をしました。IT投資額の低さは革新的な建設DXソリューションを生み出しにくくする要因の一つです。

本記事では、建築業界におけるIT投資の現状と課題・要因に焦点を当て、その解決策について考察していきます。

IT投資額が低い建設業界、他の生産性ソフトウェアと比較しても建設設計カテゴリは劣後

建設業界においてIT投資の総額が他の産業と比較して低いことは、様々な調査レポートからも指摘されています。MCKINSEYのレポート*1によると、建設企業は収益の1%未満しかITに投資しておらず​、これは自動車や航空宇宙産業など他業種の3分の1以下ということが報告されています。米国の建設団体であるAGC of Americaがまとめた建設業界を対象にした調査*2でも、56%の企業が総収入の1%未満しかITに投資していないという結果が出ています。2016年の企業の平均IT投資額は収益の3.28%、2022年には5.49%まで伸びているという世界的な調査結果*3もあることを考えると、建設業界のIT投資は低いと言わざるをえません。

興味深いこととしては、建設業界がIT技術への投資が低いということと同時に、生産性ソフトウェアの投資額カテゴリにおいても建築設計ソフトウェア(コンピュータ支援設計 (CAD)、製造 (CAM)、製品ライフサイクル管理 (PLM))は、他の生産性ソフトウェアと比べると高くないことが独の調査会社であるStatistaの調査結果*4でも示されていることです。Statistaの調査によると2024年時点で従業員一人当たりの平均支出額は、業務タスクやプロセスを管理するための「管理系ソフトウェア」や組織間コミュニケーションを行うための「コミュニケーションソフトウェア」と1.5倍程度、オフィスで利用する汎用的なツール「オフィスソフトウェア」と2.5倍程度の開きがあります。

なぜ建設業界ではIT採用やIT投資額が増加しないのでしょうか。建設業界の障壁をきちんと理解することが、今後ITやソフトウェアを活用しながら建設業界の生産性をあげていく鍵となります。

建設業界でITやソフトウェアの投資が進まない理由

本章では、建設業界でITやソフトウェアの投資が進まない理由を考察してみます。建設業界が他産業に比べIT投資に消極的な背景には、以下のような構造的・文化的な要因が考えられます。

1. 業界特性(プロジェクトの断片性・複雑性)

建設プロジェクトは一件ごとに関与する企業(元請け、下請け、専門工事業者など)や関係者、プロセスが異なり、期間も限定的です。この細分化されたプロジェクト体制の下では、全体を貫く統一システムの導入やプロセスの標準化が難しく、ITやソフトウェアを導入しても他のプロジェクトに横展開しにくいという問題があります*5​。また、プロジェクト毎に利害関係者や条件が大きく異なるため、「各現場が特殊で一概に新技術を当てはめられない」と考えられがちです​*6
 こうした業界構造上のハードルがデジタル技術の広範な導入を阻んでいるとかんがられます。

2. 技術導入への抵抗感(現場文化)

建設業は伝統的にアナログな手法が根付いた業界であり、変化への抵抗が特に強い傾向があります。ベテランの熟練労働者ほど長年の紙と経験に基づくやり方に慣れており、新たなITツール導入に懐疑的です。「デジタル化すると仕事が奪われるのでは」「現場の勘や経験による柔軟対応ができなくなるのでは」といった不安も根強いと言われています。

建設業界に限った調査ではないですが、業界への新技術の導入に対し25歳未満の労働者の50%は支持をする一方で、25歳以上の労働者になると30%しか支持していないとの結果*7​もあります。​

このように、人間中心でやってきた現場の文化や慣習が技術革新への心理的ハードルとなっています。

3. コスト・投資対効果(ROI)の問題(低収益体質)

建設業界は利益率が低く余剰資金が少ないため、ITへの先行投資を回収できるか慎重に見極めざるを得ません。新しいソフトウェアを導入すれば教育訓練や一時的な生産性低下など隠れたコストの発生を懸念する声が高まることは自然な流れです。特に工期・予算に追われる現場では、「余計なことに時間と費用を割けない」として従来手法が優先される傾向があります​*6

加えて、IT投資の投資対効果に対する評価が関係者間で統一できないこともあげられます*9。プロジェクトを遂行するための業務が細分化され、利害関係者もプロジェクトによって異なるため、導入するITの効果への評価が異なってしまうのです。ひとつのソフトウェアを導入したとしても業務改善ができる領域は部分的になってしまう傾向があるため、プロジェクト全体でみると投資対効果が低く見積もられる傾向にあります。

このようなコスト面での不安が、IT投資を先送りさせる一因となっています。

4. 人的要因(IT人材・スキル不足)

建設企業内にITに詳しい人材が少ないことも障壁です。多くの中小建設企業では専任の情報システム部門を持たず、経営者や経理担当者が兼任でIT管理をしているケースもあります。米国の建設ソフトウェア企業であるJB Knowledgeの調査では、IT専属部署を持つ建設会社は半数未満しかないという結果​​*10でした​。

このように社内にデジタル人材が不足しているため、新しい技術を選定・導入・定着させる力が乏しく、結果として現場へのIT浸透が進みにくい側面があります。また現場労働者にもデジタルスキル研修の機会が少なく、新技術を使いこなせずに定着しないケースも見られます​。

5. 新技術開発に対する採算性の低さ(技術開発の停滞)

建設プロジェクトの細分化された業務の連続で成り立っているという事実は、新技術の開発という開発ベンダーの視点でも問題を引き起こします。ひとつのソフトウェアを開発したとしても、一部の業務の改善効果しか見込めない可能性が高くなります。改善効果が限定的であり、プロジェクト全体に大きな影響を与えるソフトウェアを開発できないことは、開発者の収益も大きくなっていかないことを意味します。結果として技術開発が進まないという課題が発生します。

建設業界の生産性をあげる新技術開発への採算性の低さが、ITを提供するベンダーの開発動機を奪い、結果的に革新的なソリューションが生まれないため、IT投資も進まないという負の循環になっていることがあげられます。

以上のような要因が重なり、建設業界では「デジタル化したくてもできない・しにくい」状況が長年続いてきたと分析できます。

建設業務のIT投資に対する課題を解決し、建設DXを進めるには

建設業界がITやソフトウェアのメリットを最大限に享受するためには、建設プロジェクトを一気通貫する総合的なソリューションを生み出すことが重要です。プロジェクトに関与する業務が細分化されていても、それぞれの業務の生産性を挙げ、多くの関係者が投資対効果を期待できる経済的に合理的なアプローチが求められます。

この課題に対応することは一筋縄ではいきません。しかし、Tektomeでは以下のステップを行うことで、建設業界におけるIT導入の障壁を減らし、投資対効果の可視化を実現し、建設業界全体の発展に貢献することを目指しています。

1. IT投資の障壁を下げる

  • データの構造化による利便性向上
    建設業界では、BIMや図面などの非構造化データが多く、それを活用するには専門的な知識が必要でした。Tektomeが非構造化データを自動で解析・変換することで、データ活用のハードルを下げ、企業がIT投資を行うインセンティブを高めます。
  • 初期投資の抑制
    TektomeはAIによる設計自動化・品質チェックを導入することで、ITツールを活用するための追加の人材採用やトレーニングコストを削減可能にします。多くの企業が投資しやすい環境の構築を進めます。

2. 投資対効果(ROI)の向上

  • 設計プロセスの効率化によるコスト削減
    Tektomeは、AIを活用することで、従来の設計プロセスの時間とコストを削減することを目指しています。例えば、手作業で行っていた品質チェックや設計変更の修正プロセスを自動化すれば、工期短縮や設計ミス削減が可能になり、企業のITの投資対効果(ROI)が向上します。
  • データ駆動型の意思決定支援
    これまで経験や勘に頼っていた設計プロセスが、AIによるデータ分析に基づいた合理的な判断にシフトすることで、設計の最適化や材料コストの削減が実現し、IT投資の価値が明確になります。

3. 業界標準の変化を促進

  • デジタル設計・施工の必須化
    AIを活用した設計品質チェックが業界標準になれば、施工前のエラー削減が可能になります。これにより、BIMやデジタルツインなどの技術導入が加速し、建設業界全体のIT投資が増加し、さらなる新技術の採用が広がる可能性があります。
  • 専門的な建設ソフトウェアの普及を後押し
    AIを活用した建設ソフトウェアの解析や設計チェックが普及すれば、これまで専門ソフトウェアの導入をためらっていた企業も利用しやすくなり、結果として業界全体のデジタル化が進みます。

 Tektomeは建設業界で活用できていない設計図やCADのような非構造データの活用を促進することで、建築設計におけるIT活用のハードルを下げ、ITの投資対効果を可視化していくことを目指しています。特に、非構造化データの構造化・解析、自動品質チェック、設計の自動化といった機能により、建設業界のデジタル化、そしてその先のDX、業界全体の発展に貢献していきます。

 

    1. McKinsey & Company(2016),Imagining construction’s digital future
    2. The AGC of America(2016),2016 Construction Outlook Survey Results
    3. Deloitte(2016-2023), Global Technology Leadership Study
    4. Statista(Sep 2024),Productivity Software – Worldwide
    5. LetsBuild(2023),Why the slow uptake of technology in construction is holding the industry back
    6. The Drone Life(2024),Why Technology Adoption is Slow in Construction (And How to Overcome It)
    7. Yooz(2023),2023 Yooz Survey: Technology in the Workplace
    8. Peter E.D. Love a, Zahir Irani b, David J. Edwards c(2005),Researching the investment of information technology in construction: An examination of evaluation practices